ビアンカは、砂でできた丘の中腹に、一人で腰を下ろして月を見ていた。 夜も更けてきたため風は凪ぎ、冷えた砂と夜の闇が全ての音を吸収して、砂漠には不気味な静寂が漂っていた。しかし、空にぽっかりと浮かんだ満月のやさしい光が中和して、ビアンカにはその静寂が神聖な物に感じられた。 こうして座っていると、世界には自分と月しかいないような気がする。だが、ときどきかすかに聞こえてくるたきぎがはぜる音が、彼女に「一人じゃないよ」とささやきかけている様だった。 「そろそろ戻らなくちゃ・・・」 自分に言い聞かせるように、ビアンカは声に出していった。しかし、そんなつぶやきさえもあっという間にさばくの闇に飲まれてしまう。 仲間達は丘の向こうで休憩中だ。 何も言わずに出て来ちゃったから、あまり遅くなるとみんな心配するわ。戻らなくちゃ。 でも・・・ どうしても、立ち上がることができない。この静寂が心地よいということ以上に、皆のところに戻るのが苦痛なのだ。子供じみた行動をとったことを、ビアンカは後悔していた。はやく、何とかしようと思ってはいたが、皆のひやかすような視線が恥ずかしく、ビアンカはますます意固地になっていたのだ。 こんなとき、リュカがなんとかしてくれたらいいのに。でもきっと、そんなの無理だわ。あの子は、子供なんだもん。 ビアンカは、自分の言動を棚に上げ、心の中でリュカに八つ当たりした。 たき火の炎はもうすぐ燃え尽きようとしていた。砂漠の植物は、北に生える植物と違って炭にはならず、軽い灰となり、炎が作る小さな上昇気流に乗って、たき火の周りを舞っていた。 「ビ、ビ、ビアンカ・・・お、遅いね。」スミスが、ビアンカの去った方を見ながら、心配そうに言った。リュカもビアンカが戻らないことは気になっていた。しかし、昨日から理由も言わず不機嫌そうなビアンカに、どう接して良いのかわからず、彼女が席を外したことに、ちょっとほっとしていた。しかし、そんなリュカの気持ちを見透かすように、マーリンが言った。 「迎えに行ってやりなさい、リュカ。」 「え?僕が?」リュカは、驚いて顔を上げ、そしてちょっと気が進まなさそうに答えた。 「でも・・・きっと、もうすぐ帰ってくるよ。」 「夜のうちに、もう少しテルパドールを探すんじゃろう。今宵は満月、捜し物にはもってこいじゃ。月が高いうちに出発した方がよい。」 マーリンのもっともな理由に、リュカはしぶしぶ立ち上がった。 「お、おれが、い、い、いこうか?」 スミスが一緒に立ち上がったが、気を利かせたスラリンが引き留めた。 「おっと!スミちゃんは出発の準備をしなくちゃ。力持ちがいなくなったら困っちゃうよ。ガンドフは留守番でいないんだからさー。」 「う、う、うん・・・」スミスが足を止めると、その横をすり抜けながらリュカが言った。 「大丈夫、すぐに戻ってくるよ。」 「すぐ戻ってくるかな〜?」スラリンがひしゃげながら、楽しそうに言う。 「どうだろうね。」ピエールが答え、忘れず釘を刺した。「二人が戻ってきても、ひやかすなよ、スラリン。」 「ちぇ〜〜!」楽しみを奪われたスラリンは、ますますひしゃげながら力を貯めると、ポーン、と勢いよくはねて、もう小さくなったたき火の炎を飛び越えた。 |
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