爆弾、投下。

リュカは甲板に座って、ぼんやりと雲を見ていた。
彼は最近、大きな悩みを抱えていた。でもどうやったらこの悩みを解決できるのか、皆目見当がつかなかった。
夏の雲は次々と形を変えながら成長している。彼の中も不安もまた、もくもくと成長していた。
「リュカ〜!リュカ〜!」
どこかで自分を呼ぶ声がする。しかしリュカにはそれがどこか遠くの世界の声のような気がして、返事もせずにぼんやりしていた。やがてスラリンが大きく弾みながらやってきた。リュカは首だけ動かして、スラリンが弾む様子を見ていた。
スラリンはリュカの前までやってくると、にこにこしながら、リュカが身を守るスキを与えず、いきなり聞いた。
「ねぇ、リュカ。いつ赤ちゃん産まれるの?」
「・・・はい?」
リュカの思考が止まった。スラリンはいったい、何を言っているんだろう。リュカがスラリンの質問の意味を理解するまで、相当の時間を要した。しかしスラリンはその間、辛抱強くリュカの答えを待っていた。
「ああ、ええと、あの・・・」
質問の意味を理解したが、今度はどう答えていいのかわからず、追いつめられていた。とりあえず質問の意図を探るため、リュカはスラリンに聞いた。
「ど、どうしたの?急に?」
明らかに動揺し、声は裏返っていたが、スラリンは『赤ちゃん』にだけ興味があり、リュカの様子は気にしていなかった。
「だって、結婚って、つがいになることなんでしょ。つがいになったら赤ちゃんできるでしょ?人間もいっしょでしょ?」
スラリンがからかっているのではなく、本当に質問しているということは、その大きな目を見たらすぐにわかる。しかし、本気であればあるほど、リュカは追いつめられた。
「ああ・・・うん、そうだね、そうみたいだね」
「それで、リュカとビアンカの赤ちゃんはいつ産まれるの?」
スラリンは大きな目をますます大きく見開いて、じりじりとリュカに近寄ってくる。りゅかはそっと後ずさりした。
「あーいや、それは・・・ビ、ビアンカの方が詳しいんじゃないかなぁ。」
「だって、ビアンカに聞いたら、リュカに聞いてって言われたんだよ」
「うん、え、えええええええええ!」
リュカの絶叫が、甲板に、海に、空に響いた。
スラリンを追いかけてきたガンドフとコドランが、なにごとかとびっくりして立ち止まっている。スラリンも驚いてひしゃげていたが、やがて弾みをつけて元に戻ると、ポンポンと小さく弾みながら抗議した。
「えーもー、なに?なんでびっくりするの?」
「え?だって、き、き、聞いたの?ビアンカに?」
「聞いた。あかちゃ。」
追いついたガンドフがうれしそうに言った。
「ガンドフ、あかちゃ、好き。」
コドランも無責任そうな様子で、ぽわぽわと小さな炎を吐いている。
「あ、う、うん、そう、聞いたのか、ビアンカに・・・」
リュカは頭の中で、ビアンカの反応を考えた。しかし、考えるだけ無駄だった。真っ白になった頭の中にはなにも浮かんでこない。
「あ、あの、さ。その・・・ビアンカは、なんて・・・言ってた?」
三人組は顔を見合わせた。なんでリュカがそんな事を聞くんだろう?
「今はいろいろ忙しいから、そのうちって言ってたよ。」
「あ、そうなんだ。ふーん・・・ほ、ほかには?」
再び三人は顔を見合わせ、難しい顔をした。
「うーんと・・・それで、いつ頃まで待ったらいいのかって聞いたら・・・」
「リュカ、聞いて?」
「そうだそうだ、それはリュカに聞いてみてって言ったんだ」
リュカは目の前がくらくらした。自分は経験したことないのだが、おそらくこれが世に言う貧血というものだろう。心臓はばくばく動いているのに、頭には血液が回っていないどころか、全ての血液が首から下に落ちてしまった気分だった。
さすがののんきな3人も、ここまできてようやくリュカの様子に気が付いた。
「あの・・・リュカ?」
「リュカ、変、どうした?」
「あ、ううん、なんでもないよ。そうだよね、忙しいんだよ、いろいろと、ビアンカも僕も。」
リュカは真っ青な顔のまま必死で笑顔を作った。いや、作ろうと努力した。
「リュカ、怒ってる?顔、恐い・・・」
ガンドフが大きな目に涙をためて、うるうるしている。
「あ、お、怒ってないよ。怒る理由なんてないもん。ちょっと、疲れてるだけだよ。」
「大変、ビアンカ呼んで来ようか?」
「いいいいいい、いや、だ、大丈夫、すぐ、すぐ良くなるから。」
リュカはあわてて、あっという間に真っ赤になった。
「ほら、今日は暑いからね、風にあたってれば大丈夫だよ。」
「ふーん、わかった。お大事にね。」
スラリンは何か言いたそうだったが、リュカの本当に調子が悪そうな様子を見てやはり言うのをやめた。
「それじゃおいら、そろそろ見張りの交代だから、行くね。行こ、ガンドフ、コドラン。」
そして3人はやってきたときと同じように、嵐のように去っていった。
リュカは青くなったり赤くなったりしながら、3人を見送った。
彼は陽が傾いて夕焼けになるまでそこに座りこんでいたため、その夜本当に寝込んでしまった。

おしまい

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