オレンジ

<オレンジ 1話>

水門を無事に通り、船は二つの大陸が造る巨大な湾に漕ぎ出した。
河を下るよりは操舵に技術を要したが、穏やかな湾の波にすぐになれ、仲間達はつかの間の平和な船旅を楽しんでいた。
特に水門を通過するときにビアンカが仲間になってからは、3食美味しい食事は食べられるし、きれいでいつも明るい彼女がそばにいることは、仲間達、特にリュカに特別な活力を与えた。

湾を進むうちに、季節は夏に移り、濃い青の空に真っ白な綿菓子のような入道雲がぽっかりと浮かび始めた。
その日は波も風も穏やかで、スミスが舵を取り船は順調に進んでいた。
昼食を済ませたリュカは、甲板に日陰を見つけ、横になって空を見上げていた。甲板のどこかで、ビアンカがマリーン達と魔法の練習をしているらしい。わーとか、きゃーとかいう声が時々聞こえてくる。仲間になってから、ビアンカはマリーンについて魔法の勉強を始めた。父親と山奥の村で暮らしている間は日々の生活に精一杯で、そんな余裕がなかったのだと彼女は言って、喜んでいた。マリーンは彼女は火炎系の呪文の素質があると言っていたが、確かにほんの数日で彼女の腕はめきめきと上達していた。

  −−−そんなに頑張らなくても、僕がついてるんだからいいのに。それともビアンカにはまだ僕が、頼りない弟に見えるのかなぁ・・・
小さくちぎれて流れる雲を見ながら、リュカは小さくため息をついた。
風はサラボナのある大陸から吹きつけ、船をぐんぐん進める。北側にある大陸が近づけば近づくほど、リュカは自分が決断を迫られているようで逃げ出したくなった。しかし、そんなときでもビアンカの笑顔を見ると、なんだか全てを乗り越えていけるような気がした。
 −−−ビアンカが、ずっと一緒に旅してくれたらいいのに。ダンカンさんだってああ言ってたし。
リュカは、うとうとしながら思った。
しかし、父親思いのビアンカにそんなことを頼んでも断られるだけだろうということを、リュカは心のどこかでわかっていた。自分も・・・もし父が生きていたら、少しでも一緒に過ごしたいと思うだろう。母親を亡くし、父親を大切にしたいと思う彼女の気持ちはよくわかる。しかし・・・
自分の本当の気持ちをまだわからないリュカは、なんだかわからないもやもやしたものを持て余していた。


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