白薔薇の娘

<白薔薇の娘 13話>
港では、フローラのメイド達がはらはらしながら待っていた。いくらフローラがルドマンに慣れてきたとはいえ、二人で出かけるなど無謀ではないか?途中でフローラが泣き出しでもしたら?フローラにすっかり魅せられた二人は、彼女のことを案じ、気が気ではなかった。
「あんたら、すこしは落ち着いたらどうだね?」ルドマンの船と岸の橋渡しをした小さな船(と言ってもいわゆる小舟ではなく、小さめなきちんとした客船なのだが)の船員が、船から声を掛けた。「こっちにきて、お茶でも飲みなさい。」
二人は顔を見合わせ、そして渡し板をおっかなびっくり歩いて船に移動した。甲板の端に腰掛け、出されたカップを受け取ったが、とてもお茶を飲む気分にはならなかった。
「お嬢さんがそんなに心配かねぇ。ルドマン様とは、そんなに恐ろしいおやじさんなのかね?」事情を知らない船員は、のんきな声で言った。
「恐ろしくはありませんわ。とてもお優しい、お父様です。」不審がられないように、すかさずサリーが答えた。「ただ・・・お二人でお出かけというのは、あまりないので・・・」
「お金持ちは大変だねぇ、どこに行くにもお供の者がついて行きなさるのか。まるで王様だな」船員達は、明るい声で笑い、女中達は、肩をすくめた。
「心配するこたぁねぇさ。父親っちゅーのは、娘には目がないもんだ。ほぉら、そんなこと言ってる間に、お帰りになったぞ!」
馬車が角を曲がって小さく見えてきた。女中達は「ごちそうさまでした」と一口だけ飲んだカップを置くと、慌てて岸へ戻っていく。
「大変だなぁ、お金持ちのところで働くってのもの」「船乗りの方がなんぼかましだな、金は無くてもな。」船員達はのんびりと見送ると、自分たちも仕事に戻った。

馬車から先に降りてきたのは、やはりルドマンだった。そして今度もまた、自分でフローラを抱き下ろした。女中達はびっくりしたがそれを表面には出さず、「おかえりなさいませ」と丁寧に出迎えた。
女中達の心配は杞憂であった。フローラは、笑顔ではないが、機嫌の良い顔で馬車から降りてきた。浅葱色の髪には、見慣れぬリボンが結んであった。
「まぁ、フローラ様、そのおリボンは?」
フローラは「もらったの」と答えると、小さな頭をちょっと揺らしてみせた。おかっぱの髪と一緒にリボンもゆらゆらと揺れた。
「それはようございましたね。でも、ほどけそうですわ」ジリアンがリボンを結び直そうと手を出すと、ルドマンが豪快に笑った。
「わっはっは、すまないな。リボンなど結んだことがなかったのでな」
「まぁ!申し訳ございません!」ジリアンは慌てて手を引っ込めた。
「かまわんよ、きれいに結びなおしてやってくれ。潮風で飛んでしまわないようにな。」ジリアンは恐縮したが、たしかに今の結び方ではすぐにほどけてしまうだろう。「それでは・・・失礼させていただきます。」と言うと、おっかなびっくりしながらフローラのリボンを結びなおした。
「なるほど・・・そうやって結ぶのか。今度ひとつ、練習してみるか。」ジリアンの手元をのぞき込みながら、ルドマンはひとりごちた。そして、きれいに結び直されたリボンを満足げに見ると、「では、船に帰るか」とフローラを抱き上げた。
「ルドマン様、わたくしが・・・」サリーが言ったが、「大丈夫、落としたりせんよ。」と笑顔で言うと、さっさと渡し板に足をかけた。
メイド達はどうしてよいのかわからず、『こんな時にいないなんて、秘書の役立たず!』と心の中で同時に悪態をつきながら、ルドマンに続いて渡し板を渡った。
移動の船でもルドマンは、フローラと一緒に甲板に立ち「ほら、あそこに教会が見えるよ。さっき行った店はもっとずっと右の方だ」などと説明し、フローラはルドマンが示す方向を一生懸命見ている。
同じ甲板の、少し離れたところに控えていたサリーは、隣のジリアンに小声でささやいた。
「ルドマン様って・・・子供がお嫌いじゃなかったのね。」
「うーん・・・単に慣れてなかっただけってことかな?」
「食べず嫌い?」
「それよ!」
「シー!聞こえるわよ!」
二人はルドマンを見たが、フローラに夢中でどうやら聞こえていないようだ。
「食べず嫌いで、食べてみたら美味しかった、ってこと?」ジリアンはいっそう声を潜めた。
「たぶんね、しかもおいしくて、やみつきになったと。」
「だとしたら、あとはフローラ様よねぇ。お小さいから、仕方ないけど・・・」
サリーが物足りなさそうに言う。
「こう、たとえば、危機一髪な事態とかになったら、いい感じにならないかしら。」ジリアンの突拍子もない言葉に、サリーがあきれて言った。
「あんた、それは恋人同士の話でしょ。何言ってんのよ!へんなこと仕込まないでよ。」


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