翌日、ルドマンは港町の取引相手の家を訪れた。本当は今回もフローラを連れて行きたがったのだが、たいそう気難しい相手だからと秘書にとめられ、しぶしぶあきらめた。 「せっかくだから、フローラは昨日の教会を見てくるといい。確かあの鳥を飼っていたはずだ。」朝食の席で、ルドマンがフローラに言った。 秘書も女中達もなんの話かわからなかったが、フローラが珍しく目を輝かせたので、すぐに馬車の手配がされた。 ルドマンと共に岸まで行ったフローラは、ルドマンに見送られ、女中達と共に教会へと向かった。そこではその鳥を「聖なる鳥」として裏庭で餌付けしており、教会の中にはその鳥をモチーフにした美術品が並べられていた。小さなお客さまを出迎えた神父は、子供向けの話が上手だったので、フローラは飽きることなく時を過ごした。 そのころ、ルドマンは取り引き相手の居間でお茶を飲んでいた。 無難な挨拶と、取り引きの話が一段落したところだ。今日の相手は秘書が言うように気難しい男で、他の商人達は取り引きがうまくいかず、この地方の名産品は現在はルドマンが独占していた。 「ところでルドマン様、今回のご旅行は、たいそうかわいらしいお連れ様がおいでだそうですな。」 来たな。ルドマンはこの話が出ることを予想していた。小さい街だ。噂は昨夜のうちに相手の耳に入っているだろうと思ったのだ。 「ルドマン様にお子さんがおありとは、存じませんでしたよ。」 「出し惜しみしておったのですよ」ルドマンは落ち着いて答えた。「まだまだ子供ですし、殺伐とした世の中に出すのは早いと思いましてね。」 相手の目は、眼鏡の奥で光る。 「今日はご一緒なさらなかったんですか?」 「ええ、教会に、鳥を見に行きました。」 「鳥・・・ですか?」相手はちょっと面食らったが、すぐにまた詮索を始めた。 「奥様はご一緒ではないんですか?」 「あれの実家までは一緒だったんですが、先に返しました。」 「お嬢様を残して?」 「そろそろ私と二人で旅をしても大丈夫な歳だと思いましてね。妻はおそらくオラクルベリーに、早く帰ってこいという手紙を山のようによこしているでしょう。」 ルドマンは笑い、そしてオラクルベリーの景気についての話を始めた。相手は決して満足していなかったが、これ以上いろいろ言って、ルドマンを怒らせて商売に影響が出てもいけない。相手は仕方なしにルドマンと共にオラクルベリーの話を始めた。 「オラクルベリーでも、いろいろ聞かれますね」帰りの馬車の中で、秘書が言った。 「なに、かまわんよ。いずれ話題になることだからな。」ルドマンは少々不機嫌そうではあるが、落ち着いて答えた。「退屈で時間を持て余している奴ばかりだ。ここぞとばかり、くいついているだろうな。出身もいずれ知れるだろうが、やましいことは何もないからな。施設の身よりのない子供を引き取ったというだけだ。」 確かに、美談にはなっても商売には影響ないだろう。施設のことも、子供の虐待等は一切無く、後ろ指さされることは一切ない。 そうはわかっていても、ゴシップを好まない秘書は気が重かった。 メイド達が気を利かせたので、先に戻っていたフローラはメイドと共に港で、魚や鳥を見ながらルドマンを待っていた。秘書はちらりとメイド達を見たが、最近強気になっている彼女たちは動じなかった。 「おお、フローラ、待っていてくれたのか。教会はどうだったね」 「あのね、鳥さんが、たくさんいたの」 様々な鳥を見て興奮していたフローラは、珍しく言葉数が多くなっていた。 「こーんな大きな鳥さんで、龍の神様のお使いで、いろんな色の羽根でね・・・」身振り手振りを交えながら話すフローラを、ルドマンも秘書も驚いて見た。ルドマンはすっかり機嫌がなおり、フローラを抱き上げ、フローラの話に相づちをうちながら渡し板を渡った。 メイド達は得意げだったが、秘書は無視して、さっさとルドマンの後に続いた。 その日の夕方出港の予定であったが、フローラのドレスが仕上がらなかったので、船はもう一晩、沖に停泊した。 |
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