しばらく後、ルドマンは名残惜しそうに立ち去った。 フローラはおそるおそるメイド達に聞いた。 「おじさんは、どうして・・・泣いちゃったの?」 サリーは改めて熊の小さなドレスをテーブルに並べ、フローラのそばに跪いて答えた。 「涙が出るのは、悲しいときだけではございません。とってもうれしいときや、感動したときにも、涙が出るんでございますよ。」 「・・・かんどう?」 「感動というのは・・・たとえば、とっても美しい物を見たときとか、とても素敵なことがあったとき、フローラ様のここが」サリーはそっとフローラの胸を指した。「素敵な気持ちや、うれしい気持ちでいっぱいになることです。」 「そうすると、泣いちゃうの?」 熊を違うドレスに着替えさせたジリアンは、熊をフローラに渡しながら答えた。 「そうですよ。ルドマン様は、フローラ様が『お父様』とお呼びになったから、とってもうれしくて、うれしい気持ちがいっぱいになって、涙が出たんですよ。」 「悲しかったんじゃないの?」 「いいえ、とっても、とってもうれしかったんですよ。」 「ふーん」 フローラは、なんでルドマンが泣いていたのかはやっぱりよくわからなかったが、ルドマンが喜んでくれたということはわかった。 フローラは、かわいらしいドレスを着せてもらった熊のぬいぐるみを抱きあげた。クローゼットに並んだ、きらきらしたドレスを見た。よくわからないけど、毎日ネズミのお話をしてくれて、素敵な物をくれるおじさんがうれしいなら、『お父様』と呼んであげてもいいかな、と思った。 ルドマンの帰りを書斎の前で待っていた秘書は、世にも奇妙な物を目撃した。ルドマンが・・・スキップ、と呼んだらスキップが怒り出しそうだが・・・そうとしか表現のしようがない足取りで帰ってきたのだ。 秘書は珍しくポーカーフェースを忘れ、呆然とルドマンを見ていた。 秘書の前まで転ばずに飛び跳ねてくると、ルドマンは秘書の手を取った。 「あ、あの・・・・」 「『お父様』だ!」 「は?」 「フローラが『お父様』と呼んでくれたんだ!」 「はぁ・・・」 秘書は事態が飲み込めず、生返事をした。 ルドマンは書斎にはいると、ぬいぐるみの服の話と、フローラが自分を『お父様』と呼んだこをと説明した。 「それは・・・おめでとうございます。」 自分が関与してないところでそのような事が起こったことと、洋品店の主人がルドマンの注文を黙っていたことに少々不服であったが、それは顔に出さなかった。 ルドマンは上機嫌でパイプに火をつける。 「ぬいぐるみの洋服にあんなに喜ぶとは思わなかったよ。ちょいとした思いつきなんだがな。まったく、こどもというのは不思議なものだ。」 そして、商人の顔にもどって言った。 「うちは・・・子供服の店はあったかな?」 「は?はい。いくつかございますが・・・」 「そこで、ぬいぐるみの服を一緒に売り出したら、いけるとおもわんかね?」 ルドマン様はやはりルドマン様だ。秘書は心の中で、ほっとした。 |
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