白薔薇の娘

<白薔薇の娘 19話>
ルドマンの船は北の大陸からつながるように続く島々の、一番北側にある島の沖にいかりを降ろした。接岸用の小舟が準備される。メイドと一緒に、それを遠巻きに眺めていたフローラに、ルドマンが声を掛けた。
「おまえも一緒に来るかい?小さいお船は恐いかな?」
「あれ?」フローラが小舟を指す。
「そうだよ、あれに乗って行くんだ。まだ何もない島だがね。」
心配そうなメイド達とは対照的に、フローラは大きな目をますます大きくして、興味津々という様子だ。
「どうする?ここで待っているかね?」
「行く!」
「フローラ様!」メイド達は驚いて、思わず声を上げたが、ルドマンはやっぱり、という顔をしていた。
秘書は賛成していなかったのだが、それは顔に出さずに、小舟の準備をしていた船員達に乗員の追加の相談に行き、すぐに問題ないという回答を持ってきた。
オロオロするメイド達に「おまえ達まで一緒に来なくていいよ」と言い、フローラには
「お父様と一緒で大丈夫だね?」と言った。
フローラはまだ時々しか見せない笑顔で「はい」と言ったので、ルドマンはすっかり有頂天になり小舟の中でもかいがいしい父親ぶりを見せた。もっとも、ルドマンの「父親」はまだにわか仕立ての基本ができていない「父親」であるため、実際は護衛を兼ねて一緒に来た操舵をしていない船員が面倒を見ていたのだが。
小さな桟橋から島に上陸すると、その島には何もなかった。島の北側には大陸と、そこから突き出す小さな半島が見える。桟橋の近くには草原が広がり、向こうには森が見えた。森の手前に小さい村があり、家の煙突から煙が上がっていた。
フローラは、ルドマンの上着の裾を握り、村までの道をとことことついていった。

村の男達とルドマン達が話をしている間、フローラはルドマンの隣で出されたクッキーを食べておとなしく待っていた。
やがて一行は外に出て、草原の中で辺りを見回しながら話をした。フローラは話をしているルドマンの隣に立っていたが、そばに咲いている背の高い花の群れを見ていた。一番後ろに立っていた男がそれに気付き、小さな声で「あれは、ひなげしっちゅー花ですよ」と言った。村長らしい年嵩の男があわてて注意した。
「これ、おじょうさんに、勝手に話しかけるでねぇ!」
しかしルドマンは「かまわんよ」と言っただけで男をとがめることはなかった。
「あの花が好きなのか?見てきなさい。ただし、お父様から見えるところにいるんだよ。」
フローラはぱっと顔を輝かせて、「はい!」と言うと、花に向かって走っていった。
秘書が心配そうに「ルドマン様」と言ったが、年嵩の男は「心配ありませんよ。この辺りには、魔物はいません。野リスの穴があっくらいですよ」と言い、ルドマンに「めんこいおじょうさんですなぁ。大きくなったら、たいそうな美人におなりでしょうなぁ。」と言った。ルドマンは満足そうに頷くと、また商人の顔に戻り、話を続けた。

沖の船では、メイド達が甲板でおしゃべりをしながら小舟が見えるのを待っていた。
「しっかし、意外よねー。あの旦那様の子煩悩なこと!」
ルドマン付きの若いメイドが言った。
「ほんとねー!今までご親戚のお子さま達にだって、ろくにお声をかけたことなかったのに。」
「あたしは、子供に聞かせるようなお話をご存じだっていう方が驚きよ。まさか経済学とか、経営論を語っているわけじゃないんでしょ?」
「それがね、けっこう面白いお話なのよ。」
ジリアンが答えた。
「ネズミが冒険する話しなんだけどね、ご自分でその場で作ってるって感じでもないから、覚えていらっしゃるんでしょうけど、すごく面白いのよ!」
「あんた、フローラ様より一生懸命聞いてるもんね。」
サリーがあきれた口調で言ったので、メイド達はどっと笑った。
「さぁさぁ、お船がお戻りになるよ。」
航海中、臨時にメイド頭を勤めている少し年嵩のメイドが、遠くに小舟を見つけて言った。
「仕事に戻らないと、あの秘書に見つかったらまた嫌味を言われるよ!」
メイド達や甲板で寝ころんでいた船員達は、サリーとジリアンと、小舟を出迎える船員を残して持ち場に戻っていった。


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