白薔薇の娘

<白薔薇の娘 24話>
ポートセルミからサラボナまでは、馬をどんなに急がせても途中で1泊は必要だ。
グリンダは4頭立ての馬車を準備していたが、船の到着が少し遅れたので、休憩を減らしても屋敷までは2泊を必要とした。
以前は途中で馬を変えながら夜間も馬車を走らせもっと早く着けたのだが、この数年はサラボナのある大陸にも魔物が増え、それに乗じた盗賊まがいも増えてきたのため、夜通し移動する旅人はほとんどいなくなっていた。
「昔なら、明日の夕には着いたんだがなぁ。」
「例え魔物がいなくても、小さな子供が一緒ではそんな旅はできませんよ。」
ルドマンの独り言をグリンダが拾って答えた。
「ああ、そうか・・・いろいろ、難しいものだね。」
しかしそうは言ってもルドマンの表情には、まるで冒険に向かう少年のような歓びが隠れていた。それを見つけたグリンダは、優しくクスリと笑った。
フローラは、椅子にクッションを乗せてもらい、グリンダに落ちないように支えられながらその上に座って外を見ていた。春を迎えた森は全体が薄い緑に萌え、道ばたには色とりどりの小さな花が咲き、時々草むらから顔を出すまだ眠そうな狐や兎が馬車の音に驚いて逃げる姿が見えた。たっぷり用意された甘い香りの美味しいお菓子と流れていく美しい外の景色、外を見るのに飽きたら『おかあさま』と『おとうさま』のお話を聞いて・・・フローラにとって、初めての馬車の長旅は楽しかった。

ずっと施設で育ってきたフローラにとって、ルドマンと出会ってからの、常に大人が側にいて自分に注意を払っているという環境はストレスであった。愛情に飢えていた子供であれば、飛び上がって喜んだであろうが、フローラは施設の環境に満足していたし、過多の愛情を受けた経験がなかったので「もっと注目して欲しい」と思うことはなかった。それに元来一人で過ごすのが好きな質でもあったので、何かを命令されたり強要されることが無くても、常に大人に囲まれているのは、小さな子供でもそれとわかるような苦痛を時々感じていた。
しかし今は・・・一緒にいる大人達は常に自分に注意を払っているのに、なぜがそれが苦痛ではなく、心地よささえ感じる。フローラはあまりにも小さかったので、その違いや、それがなぜなのかはわからなかった。ただ、今の状況が嫌ではない、ということだけを漠然と感じていた。途中で食べたお弁当も、その日の宿の夕食も、なぜか今までより美味しく感じられた。
ここしばらくの船旅でフローラがいろんな大人と関わることに慣れてきていたことと、グリンダが元来子供好きであること、自身もまだ少女の心を持っていたこと、そしてルドマンのように親子としての関係を求めず、『優しいお姉さん』として接していたこともあり、フローラは今日だけでずいぶんグリンダに馴染んでいた。
ルドマンはこのことに少なからず嫉妬を感じていたが、彼には「おはなし」という切り札があった。メイド達がフローラの寝仕度を済ませると、ルドマンは得意げにフローラを抱き上げ、フローラの寝室へと向かった。
グリンダはその少々子供じみたルドマンを面白そうに見送ると、自分たちの寝室へと戻っていった。


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