白薔薇の娘

<白薔薇の娘 29話>
やっと春を迎えたサラボナの日の出はまだ遅かった。大きな川の向こうに広がる山の上から顔を出した朝日はサラボナの街を柔らかな光で包んだ。街の上を漂う薄もやが陽を受けて慌てて立ち去ると、朝露に輝く街が姿を現した。
街の西側に広がるルドマンの屋敷の敷地はサラボナの街より遙かに大きく、屋敷を取り囲む木々や草は新緑で萌え、屋敷の東側を流れる小川から立ち上るもやが朝日を浴びてきらきらと光った。サラボナの街と屋敷とは、小川沿いの小さな林と丘が隔てていた。屋敷の東側には小さな温室がある。西側の温室はもっと大きな作りで様々な南国の植物が植えられていたが、この東側の温室ではグリンダが故郷の街から持ってきた草花が育てられていた。屋敷の正面には一流の庭師による見事な造形が様々な庭木によって造られており、屋敷の上の階から見ると不思議な幾何学模様を描いているのが見て取れた。中央には女神達を象った彫刻が並び、小さな池の中の噴水が虹を描いていた。
屋敷の東を流れる小川はその美しい庭と小さな果樹園を経て楽しそうにささやきながら南に下り、やがてピクニックに行くにはちょうど良い辺りで中央に島を抱いた池になる。島には異国の建築様式で建てられたこぢんまりとした別荘が建てられ、色とりどりの花が咲き乱れていた。
池の南側からは再び小さな流れが草原を下り、塀を抜けてサラボナを取り囲む大きな川へと注いでいた。
屋敷の北側は、この地方に自生する酸っぱい小さな実をつける背の低い木が並び、小川の源となる小さな泉を隠していた。そして木立の向こうには、魔物の進入を阻むための背の高い塀が、街に迫る薄暗い森との間にどっしりと構えていた。
ルドマンの屋敷の中央は、来客のための応接間や客用寝室があり、そこを挟んで西側にルドマンの仕事の為の部屋が並び、東側は家族のためのプライベートなスペースになっていた。
東側の並びだけでも、家族のための居間や食堂、寝室をはじめ、音楽室や図書室、遊戯室など数多くの部屋があり、小さなフローラがすぐにどこに何の部屋があるのか覚えることは不可能で、ほんの数日の間に5回も屋敷の中で迷子になっていた。

グリンダの指示で、ルドマンが屋敷に戻る日は公には伏せられていた。おかげで彼らが屋敷に戻ってからしばらくは、やっかいな訪問者もなく、ルドマンも書斎に籠もることをせず、いわゆる「親子水入らず」の時間を過ごすことができた。
朝は三人で食卓を囲み、お弁当を持って屋敷の案内がてら毎日ピクニックに出かけた。果樹園に、温室に、護衛をつけて街の外に・・・屋敷に戻るとルドマンはしぶしぶ仕事を始め、グリンダとフローラは短い昼寝をしてから、夕食までを本を読んだり屋敷の中を探検したりして過ごした。夕食の後はテラスや温室でお茶をして、月が昇る頃には佳境に入ったルドマンのお話を聞いて眠りにつく。穏やかで、楽しい日々だった。


前のページへ戻る もくじへ戻る がらくた置き場のトップへ戻る 次のページへ進む


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送