「さっきはよくも、無視しおったな」 食堂を後にしたルドマンは、後ろからついてくる秘書に言った。 「は?なんのことでございましょう?」秘書は表情を変えず、答えた。「わたくしなどが口を挟まずとも、ちゃんとお父様として、躾をしていらっしゃいましたね。」 ルドマンは、ひとつ咳払いをした。彼が照れていることを、秘書はわかっていた。 「先代も、ご主人様とお会いになるときは、いろいろとご苦労があったそうですよ」 「馬鹿な!親父は厳しいだけだったぞ!」ルドマンは足を止め振り向くと、語調を強めて反論した。しかし秘書は表情を変えず、言った。 「さようでございます。よい跡継ぎに育てるのが、ご主人様にとって幸せになると、先代はお考えだったそうですよ。」 ルドマンは秘書をにらんでいたが、何も言わずに前を向き、また歩き出した。 自分の書斎につくと、前にまわりドアをあける秘書に尋ねた。 「次の港に、あの子が喜びそうな店はあるかね?」 そのころフローラは、自分の部屋で疲れきっていた。 「全部お召し上がりになって、お偉かったですね。お皿を下げたとき、コックも喜んでいましたよ。」サリーがフローラの前にジュースを置きながら言った。 フローラは、小さく「ありがとう」と言うと、ジュースをごくごくと半分ほど一気に飲んで、はぁ、と小さく息を継いだ。そして、サリーに聞いた。 「おじさんは、どうして一緒にご飯食べたの?」 無理もない。この船に来てからフローラはいつも一人で食事していたし、娘になった、ということの意味がまだわかっていないのだから。 「そうですねぇ」サリーは、言葉を選びながらゆっくり言った。 「お食事は、おひとりで召し上がるより、誰かと一緒の方がおいしゅうございますからね。ルドマン様も、いつも一人で召し上がっているので、お寂しいんですよ。」 「だったら、みんなと食べればいいのに・・・」 主従関係などわからぬフローラは、不満げに言うと残りのジュースを飲み干した。朝食の席で、なんとか食事は押し込んだが、緊張していて飲み物までは飲めなかったのだ。 「私共は、ルドマン様とはご一緒できないのですよ」 「どうして?」 「そういう、決まりなのですよ。」サリーは言った。「フローラ様には難しいかもしれませんが、ここでは、そういう決まりがあるのです。主人と使用人というのはそういう関係なのです。」 フローラは、納得できない、という表情をしている。サリーはクスリと笑って、続けた。 「世の中には、難しい決まりというのが、たくさんあります。たとえば、教会の中では、大声を出したり、笑ったりしてはいけないでしょう?今は、よくおわかりにならないでしょうけれど、きっと大きくおなりになったら、おわかりになりますよ」 教会の例を出されてフローラは、なんとなく、サリーの言っていることがわかる気がした。でも、それと、自分がおじさんと一緒にご飯を食べなければいけないのは話は別だ。 「あの・・・お昼は・・・」フローラは、おそるおそる聞いた。 サリーは、ちょっと困った顔をしたが、ごまかすわけにはいかないと、正直に答えた。 「きっとまた、ご一緒なさるでしょうね」 フローラが小さなため息をついた。しかし、サリーに「フローラ様がちゃんとお食事を召し上がらないと、みんなが心配致しますよ」と言われては、もう行きたくないとは言えなかった。 |
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