リュカはビアンカが黙っているのを、まだ怒っているのかと思い慌てて言い訳をした。 「ごめん、ごめんね、ビアンカ。だってあの時はビアンカのことしか考えてなくて、ビアンカがすごくきれいで、月なんて・・・見てなかったよ」 リュカはさらりと、ビアンカが耳まで赤くなるようなことを言った。ビアンカはそんな顔を見られたくなくて、頬を押さえて下を向いた。しかしリュカは、ビアンカがますます怒ったと勘違いし、饒舌になって言い訳した。 「だってさぁ、サラボナまでは、僕が無理矢理連れていったんだし、ビアンカはフローラさんと結婚しろ!って言ってたから、あんなことになったら怒って、僕のいない間に帰っちゃうんじゃないかと心配だったんだよ。村で会ってから、ずっと離れたことなかったし・・・」 「離れるってそんな、同じ街の中じゃない。」 ビアンカの声はもう怒っていなかった。リュカが思わぬ事を言いだしたので、ちょっと面白がっていた。しかしリュカは必死になっていたので、ビアンカのそんな様子には気づかなかった。 「そりゃ、同じ街だけど、なんて言うかこう・・・僕の手の届かないところにいる気がしたんだよ。フローラさんはビアンカのことどんどん連れて行っちゃうしさ。別荘がどこにあるのかわからないし、街の人に聞いたら、いろいろ言われるし・・・まいったよ」 「あんな時間に、もう寝てると思わなかった?」 「思わなかったね。」リュカは、きっぱりと言った。「ビアンカは、絶対起きてて、僕のことを待ってるとわかってたもん。」 「なんで?」ビアンカは、あまりにリュカが自信ありげに言いきるのにびっくりして、否定するのを忘れた。 「だって、ビアンカだからさ。」リュカは、そんなこともわからないの?とでも言うような口調で言った。ビアンカは、リュカのむちゃくちゃな理由に吹き出しそうになったが、リュカがしごくまじめに話しているので、必死で吹き出すのを我慢した。 「でも、私・・・リュカを・・・待ってて、起きてたわけじゃないわ」 「でも、起きてたでしょ?」リュカは強気で言い返す。 「うん、まぁ・・・」 「そして、会えた。僕が、ビアンカに会いたくて、そして会えた。だからいいんだよ。」 なんで僕はこんなに、こんなことを話しているんだろう。リュカは、自分で自分の行動が不思議だった。でもなぜか、今は話すべきだと思った。ビアンカが僕に、なにか魔法をかけたんだろうか?でも、そんな魔法、聞いたことがない。 「なんで・・・そんなに会いたかったの?」 ビアンカは、リュカの言ってることはむちゃくちゃだと思ったが、面白くてさらに尋ねた。 「言っただろ?ビアンカが帰っちゃうんじゃないかと心配だったって。」 「それだけ?」 「うーん・・・」リュカは、そのときの自分を思いだした。別荘の庭と、一つだけ開いていた窓。そういえば、月が出ていたのかもしれない。髪をほどいて窓辺に立つビアンカは確かに、今、月に照らされている美しいビアンカと同じように、輝いて、この世の物とは思えないほどきれいだった。 あの時、僕は・・・ 「僕は、気持ちを確かめたかったんだ。」 「気持ち・・・・?私の?」 リュカは、首を振った。「違う。僕自身の気持ちだ。」 リュカはゆっくりと、言葉を選びながら話した。 「僕は、考えたんだ。何を失うのが一番つらいだろうって。 父さんの敵とか、母さんを捜すとか、教団をつぶすとか・・・そういうことも、もちろん大切だけど、でも、そうじゃなくて、僕が、僕自身が、欲しいものを。僕が、失ってつらいもの・・・失いたくないものは、なんだろうって。」 リュカがあまりに真剣に話すので、そして彼の瞳が熱く、じっとビアンカを見つめるので、ビアンカは息をするのもいけないことのような気がした。 つい、周りを警戒することも忘れ、全ての神経をリュカに、その不思議な色の吸い込まれそうな瞳に向けて、彼の話を聞いていた。 「ルドマンさんの財産は、最初から欲しいと思わなかった。天空の盾も、あるところがわかっていれば、今回手に入らなくても、いずれなんとかなるだろうと思った。もし、教団の奴らが手を出したとしても・・・僕がそのうち強くなったら、取り返せるだろうし。甘いって、怒られるかもしれないけどね。」リュカはちょっと肩をすくめた。 リュカはちょっと話をやめ、そしてまた口を開いた。 「でも、ビアンカは・・・また会えるまで、10年以上かかった・・・」 リュカは、ビアンカに手を伸ばした。ビアンカが嫌がらないのを見ると、そっとやさしく、ビアンカの腕に触れた。 「今度手放してしまったら・・・僕が側にいない間に、誰かにさらわれてしまったら・・・父さんと母さんみたいに、もう二度と会えなかったら・・・」 リュカの手に力が入る。リュカのその手に、ビアンカがそっと、自分の白くしなやかな手を重ねる。 リュカがビアンカを抱き寄せようとした、その瞬間・・・ |
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