夢の向こう側

<夢の向こう側 1話>
貧しい行商人のダンカン夫妻は、旅の途中で美しい『宝物』を拾った。

その『宝物』は、人間の女の形をしてはいるが、背中に白く輝く羽を持ち真珠の肌と光の髪をした「何か」の腕に、大切そうに抱かれ、元気に泣いていた。
そっと服を脱がせると、赤子の背には羽はなかった。しかしその赤子の白い肌と光の髪と、その顔立ちから、赤子が既に冷たく堅くなっている「何か」の子供であることは、見て取れた。
赤子の泣き声を聞くうちに、子供のいないマグダレーナの胸が熱く張った。赤子に含ませると、赤子は夢中で乳を飲み、満足すると、春の光がこぼれるような笑顔を魅せた。
ダンカン夫妻は、その笑顔に魅せられた。「何か」を丁重に埋葬すると、その墓に言った。
「この子は、お預かりします。私共の子供として、大切に守ります。そして、もしそのときが来たら・・・お返しすると約束します。」

二人はその赤子に、真珠のような白い肌から「ビアンカ」と名付けた。
そして「親子3人」での旅が始まった。


ビアンカを連れて歩くようになると、商売相手は、ある時は赤子の無邪気な笑顔に心なごみ、ある時は子連れの行商の大変さに同情し、取り引きは順調になり、商売はどんどんうまくいくようになった。
しかし、ダンカンもマグダレーナもそれぞれ、ちいさくても代々商売を営む家で育っている根っからの商売人だ。商売がそんなに甘くないということを、嫌と言うほど良く知っている。ダンカンの今までの努力が実を結んだ、にしてもできすぎている。
『この子の・・・あの「何か」のご加護では・・・』二人は内心、そんなことを思っていた。しかし、口に出していったら相手に笑われるのではないかと思い、互いに心の中だけに留めていた。
だがやがて、どうにも説明が付かない偶然と幸運に続けて出会ううちに、互いにそれを認めないわけにはいかなくなった。
例えば・・・他の商隊に混じり出発するはずが、ビアンカがどうにもむずかるので同行をあきらめたら、後日その商隊が盗賊に襲われたとか、船旅の時に、ビアンカを気に入ったある船の船長に乗船代を安くするからと言われ、当初の予定から変えたら、最初に乗る予定をしていた船が難破したとか・・・そんなことに遭遇するたびにダンカン夫妻は、ビアンカと、遠い空の下で眠る「何か」に感謝し、この子を大切にしなければ、と強く思った。
しかし同時に・・・この幸運の理由を誰かに知られたらという不安が、いつも夫妻につきまとった。魔物が増え、どの国でも良い噂を聞かないご時世だ。自分たちはどうなってもいい。だがビアンカが悪事にでも巻き込まれ、危ない目にあったら・・・日に日に成長し、かわいらしい片言を離すようになったビアンカ。どうやったら彼女を守っていくことができるだろう。


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