「そろそろ、どこかに落ち着こうか。」ある日突然、ダンカンが言い出した。ビアンカのおかげで少しだが、蓄えもできた。もう少し金を借りれば、どこかに小さな店舗を買うことができるだろう。 「でも、一カ所に住んで、その・・・そこで、噂にでもなったら・・・」マグダレーナが言った。 同じところに住み続ければ、どうしてもそこの住民とのつきあいは密になるだろう。ビアンカの秘密が誰かに知れたら、噂が広まってしまうのを防げない。旅ばかりの生活では、ビアンカに十分な教育ができないことを心配してはいたが、それよりも大切なビアンカが人々の好奇の目に晒されたり、危ない目にあうことの方をマグダレーナは恐れていた。 ダンカンとマグダレーナはこのことについて何度も話し合った。そして最終的に、ちょっと田舎のあまり大きくない街に住もうという結論に達した。噂と言うことを考えれば、旅の途中でも商人の間でなにか噂になれば、それはあっという間に広まってしまうだろう。だとしたら、旅を続けるより安全な街に住んだ方が、危険な目に遭う確立、すなわち噂の元になるようなことが起きることが減るだろうということになった。 「マグダレーナ、以前行ったアルカパという街を覚えているかい?ほら、ラインハットに行く時に寄った街だよ。」ある日、宿の下の酒場から部屋に戻ったダンカンが、珍しく興奮した様子で尋ねた。「あそこなんか、どうだろうね?適当に田舎だし、そこそこ人が多かったから、あまりつきあいもべったりしていないんじゃないかと思うんだけどね。」 「そんな急に言われても・・・どんな街だったかね」マグダレーナはもう眠くなりぐずるビアンカを膝であやしながら、小さな声で答えた。「でも、そんな街だったら、もうよろず屋も武器屋もあるんじゃないのかい?店が出せそうなのかい?」 「うん、それなんだがね、あそこの宿屋を買おうかと思うんだよ。」 「宿屋だって?」今度はマグダレーナが大声を出し、驚いたビアンカが鳴き声をあげ、マグダレーナは慌てて立ち上がると部屋の中を歩き回りビアンカをあやした。 やがてまたビアンカが落ち着くと、歩き回るのをやめず小声で、一緒にうろうろしているダンカンに聞いた。 「宿屋って言ったかい?いったいどうして宿屋を?」 マグダレーナは訳が分からなかった。ダンカンはずっと商人をしていたし、行商の途中でも、店舗の品定めをしたり、この街に店を開くとしたら、などという話はしたが、宿屋をやりたいなどということは聞いた覚えがいない。それとも、自分はビアンカのことばかりにかまけていて、この人のことをわからなくなってしまっていたんだろうか・・・ 「いや、すまない。そんなに驚かないでくれ」ダンカンはマグダレーナからそっとビアンカを抱き取り、マグダレーナの形の良い額にキスをした。 「別に、前から考えていたとか、そんなことじゃないんだよ。」 そっとベッドに腰掛け、膝を揺らしてビアンカをあやしながら、話を続けた。 「下の酒場で、アルカパの宿のご主人に会ったんだよ。私の方は当然、すっかり忘れていたんだけどね。あちらはビアンカをよく覚えててくだすって、夕飯の時にあたしらを・・・いや、ビアンカを見かけて思い出して、あちらから声を掛けてくだすったんだよ。」 ビアンカはダンカンの膝でこっくりこっくりと船をこぎはじめた。ダンカンはビアンカをベッドに寝かせると、マグダレーナと共に窓辺に置いてあった椅子に座り、小声で話を続けた。 「ご主人は、ご自分の実家からアルカパに戻る途中なんだそうだが、事情があって、急にアルカパの宿を手放して、自分の実家に戻らなくちゃいけなくなったそうなんだよ。でも、売りに出しても買い手がつかないから仕方ないからたたもうかと思っていたそうなんだ」 ダンカンは、話を止めてマグダレーナの反応を見たが、彼女はだまっていたので、そのまま話を続けた。 |
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