ダンカンとビアンカがアルカパに戻ってから、なんの連絡もないまま数日が過ぎた。 その日は、春には珍しく、朝から空を重く、低い雲が覆い、冬に後戻りしたのかと思わせるような冷たい風が吹き付けていた。そのせいでいつもより早い夕方を迎えた頃、アルカパの街の入り口で小さな騒ぎがおきた。 騒ぎの主は、程なく街の奥にある宿屋の裏口に、若い守衛の小脇に抱えられて連れてこられた。 「お嬢さん!どうなさったんですか!」 女中頭は、ついさっきまで部屋で昼寝をしていたはずのビアンカが、守衛の腕から逃れようと無言でじたばたと無駄にもがく姿を見て、つい大声を上げた。 そうとう暴れて手こずらせたらしく、若い守衛の頬と腕にはうっすらとあざができていた。 「街から出ようとしてましてね、サンタローズに行く、としか言わないし、一人だったので、とりあえず連れてきましたよ」 一緒に来ていた守衛長が説明する。 ビアンカを抱き取ろうとしたが、「放して!」といいながら暴れるビアンカが女中頭の手に負えるわけがない。しかし台所はお客の夕飯の準備の最中で、誰も手伝っている暇はない。 「いいですよ、お部屋までお連れしましょう。」 自分は被害を受けていない守衛長は、慣れた様子で言った。 最近はずっとなかったが、小さい頃のビアンカは一時頻繁に街からの脱走を試み、その度に守衛達に捕獲されていのだ。 そして彼もまた、ビアンカの不思議な能力に気づいているが、何も言わずにいる者の一人であった。脱走騒ぎの後は、よくダンカン夫妻が落ち着かなさげにしていて、時にダンカンが慌てて出かけたりしていた。最初は娘の言葉に振り回される単なる親ばかだと思っていたのだが、いろいろな物事の関係を考えると、偶然では説明できないなにかがあることに気が付いた。しかし、傭兵生活の長かった彼は、他人への興味も薄かったし、金になるようなこととも思わなかったので、ただ淡々と、彼女を捕まえては宿に連れ帰っていた。 ビアンカは、部屋に連れて行かれてもまだ暴れていたが、他の女中に呼ばれ、ダンカン夫妻が慌ててかけつけたのをみて、観念したのか、やっとおとなしくなった。 若い守衛にベッドに降ろされたビアンカは、マグダレーナに「いったいどうしたんだい、ビアンカ。子供だけで街の外に出ちゃいけないのは知っているね?」と聞かれても、堅く口を閉ざして何も言わない。ダンカンとマグダレーナは顔を見合わせた。たぶん、他人がいては言えない事なのだろう。 「申し訳ありませんでした。よく言い聞かせますので。」マグダレーナが守衛達に頭を下げる。そして、「お詫びに、なにか準備させますから・・・下へどうぞ。」と案内した。ダンカンは女中達に、「騒がせてすまなかったね。あたしはちょっとお説教してから行くから、先に仕事に戻っていておくれ。忙しい時間に、すまなかったね」と廊下にあつまった女中達を散らした。 |
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