廊下に誰もいなくなったことを確認してから、ダンカンはビアンカの部屋のドアを閉めると、ビアンカの隣に座っていった。 「サンタローズがどうしたんだい?」 ビアンカは、その瞳を大きく見開くと涙をぽろぽろとこぼして言った。 「サンタローズに、恐い人がたくさん来て、村を燃やしちゃうの。リュカのお家も燃えて、教会も、牛小屋も・・・」 そこまで言うのがやっとだった。 ダンカンの顔色が変わった。 「サンタローズに、誰かが来ると言うことかい?」ビアンカが涙を流しながら頷く。 「そして、家や教会が壊されると言うことだね。」 「そう、だから、早く行かないと!リュカのお家も燃えちゃうの!サンチョさんに知らせて!」 「ちょっと・・・ちょっと、待ちなさい、ビアンカ。」 ダンカンは必死で考えた。先週、ビアンカがパパスの話をしたときは、サンタローズには危険がないと思ったから行けたのだ。もし、本当に誰かがサンタローズを荒らしているとしたら、そんな場所に、なんの力もない自分が子供をつれて行くことなどできない。仮にその場に居合わせなかったとしても、子供の夢の話など、誰も信じてくれまい。しかし、サンチョに相談したら?サンチョはこの前、自分の話をまじめに聞いていた。あの男はただの下男ではないだろう。彼に相談したら、なんとかなるかもしれない。 「わかった、ビアンカ。サンタローズに行こう。」ビアンカは顔を上げ、ベッドから飛び降りようとしたが、ダンカンがそれを抱き留めた。 「待ちなさい、今すぐ、という訳にはいかないよ。」 「なんで?すぐ行こうよ!」ビアンカは手足をばたつかせる。ダンカンはバランスを崩しそうになりながら、なんとかもう一度ベッドに座らせると、ビアンカの肩をつかんで言った。 「落ち着きなさい、ビアンカ。もうすぐ夜になる。そんな時間におまえとあたしだけで街道を行けると思うかい?サンタローズに行くまでに魔物にやられてしまうよ。」 「大丈夫よ、レヌール城に行ったときも、大丈夫だったもん!」 ダンカンはため息をついた。 「おまえね・・・あの時だって、父さんに怒られただろ。忘れたのかい?」 「忘れてないけど・・・」ビアンカは、ばつが悪そうに答えた。「でも・・・」 「とにかく、宿の仕事もあるし、今から行くことはできないよ。でも、明日の朝早く出かけよう。」 「ほんとに?」 「本当さ。だから、一人で行こうとしちゃいけないよ。約束できるかい?」 ビアンカは、勢いよく頷いた。 「よし、それじゃ、守衛さん達にあやまりにいこう。まだ下にいらっしゃるだろう。」 「しかし、あの子はなんであんなに暴れてたんでしょうね。」新入りの守衛が首をかしげた。 守衛長と新入りの守衛は、大きなバスケットを下げながら街を歩いていた。彼らは既に宿でお詫びのご馳走を振る舞われ、詰め所のお仲間に、とお土産までもらったのだ。 「お前、サンタローズ行ったことあるか?」お酒が入ってちょっと顔を赤くした守衛長が、新入りの質問には答えずに言った。 「え?いや、ないっす。」 「よし、明日一緒に行ってこい。」 「ええ?な、なんですか、突然」 若い守衛は驚いて、重いバスケットを落としそうになったが、守衛長は平然として答えた。 「なんであの子が暴れてたのか興味があるんだろ。自分で確かめてこい。俺の装備を貸してやるよ。」 「サンタローズって、隣村っすよね。なんで装備なんて・・・」 「おまえ見たいなよわっちろい奴は、そのくらいしないと途中でやられちまうだろ。」 「ひどいっす!自分も一応ちょっとは魔法も使えますし」 「だったら護衛くらいはできるだろ。」新入りの言葉を、守衛長はうるさそうに遮った。「かわりに、もしなんかあったら、手当つけてやるよ。」 「ほんとっすか!行きます!行かせてください!」 新入りは守衛長の言葉をちゃんと聞かず、『手当』という言葉だけで喜んでいた。守衛長は新入りの単純さにあきれていたが、急にまじめな顔になって言った。 「詰め所に戻っても、他の連中に、サンタローズの話はするなよ。」 「わかってますよ!みんな行きたがったら困りまからね!」 守衛長は、もし本当にサンタローズでなにかあったとき、今日のことが皆に知れていたらビアンカの事をいろいろ言う者がでるのではないかと少し気になったのだ。しかし、うかれている新入りにそこまで説明するのは面倒になったし、そんな気遣い、自分らしくない。 新入りが余計なことをしゃべらなければ、理由はどうでもいいことにした。 |
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