夢の向こう側

<夢の向こう側 15話>
翌朝、ダンカンとビアンカは、心配するマグダレーナ達を宿屋に残して出発した。
まだ朝早かったので、街は静まり店もまだ開いておらず、時々通る農家の人の、荷車の音だけが響いていた。しかしそんな静かな街の入り口で、昨日の若い守衛が待っていた。
彼は守衛長が提供した防具と武器を装備し、その格好には不似合いなかわいらしいバスケットを持っていた。
「おはようございます!」守衛の元気のいい声が、朝の街に響いた。守衛は自分の声に驚いたような顔をして辺りを見回すと、声を落としてもう一度「おはようございます」と挨拶した。
「おまえさんは、昨日の・・・」
「はい!ディーク・スレイトンと言います!」
若い守衛は軍隊式の敬礼をし、そしてにかっと歯を見せて笑うと、「自分も、ご一緒させてください!」と言った。
「え?あの・・・」ダンカンが、彼の意図がわからず戸惑っている間に、ダンカンの後ろに隠れるようにしていたビアンカが一歩前にでると、ピョコンと頭を下げた。
「昨日はごめんなさい。もうしません。」
「あ、大丈夫っす!仕事っすから!」暴れていないビアンカを改めて目の前にして、そのかわいらしさにディークが照れている間に、ビアンカは「それじゃ、失礼します」と言って彼の前をすたすたと通り過ぎた。ダンカンとディークはつい、呆然とビアンカを見送ってしまった。ビアンカは少し先に行って、立ち止まって振り向くと、「父さん!早く!」と言った。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」ダンカンは我に返りビアンカに呼びかけた。「すぐに行くから、そこから動いちゃいけないよ。」
ビアンカはかわいらしく頬をぷぅっとふくらませて、道ばたにあった切り株によじ登って座った。
「せっかちな娘で申し訳ありません。かあちゃんそっくりでこまっちまいますよ」
ダンカンは人なつっこい、だが営業用の笑顔でディークに話しかけた。
「いや、いいっす。かわいいっすよ!」ディークは、なにも考えていません、という笑顔で返事をした。
ダンカンは小さくため息をつくと、どう切り出した物かと考えたが、早く出発したいし、ビアンカもきっとそう長くは待てないだろうと思い、いきなり核心から切り込んだ。
「先ほど、一緒に、とおっしゃいましたが・・・あたしたちが、どこに、なにをしにいくのか、ご存じですか?」
「はい!」また大きな声で返事をしてしまい、ディークはしまった、という顔をして辺りを見回したが、誰もいないのを確認すると声を潜めて返事した。
「サンタローズにいるお嬢さんのお友達に会いに行くと、昨日お聞きしました。自分は、まだここに来たばかりで、サンタローズというところに行ったことがありません。隊長が、一緒に行ってこいと言ってくださいました!」
「隊長さんが?」ダンカンがいぶかしげに言った。隊長、すなわち、守衛長は、確かに昨日この青年と一緒に、ビアンカを連れてきてくれた。彼には以前から、ビアンカが騒ぎを起こすとなにかと世話になった。無愛想でぶっきらぼうなしゃべり方をするし、人付き合いは苦手そうだが、実はけっこう世話好きで、子供に好かれる質であることをダンカンは知っている。その彼が・・・?
「はい!隊長は、サンタローズにかわいい娘さんがいると・・・あ、いえ、みなさんの道中の護衛をしろと言われました!」
「それで・・・その格好は?」
「はい!隊長が貸してくださいました!」そしてうれしそうにバスケットを持ち上げると「これは、奥様が準備してくださいました」と付け加えた。
「そうですか・・・」ダンカンが考え込むと、ディークがなにかを思い出した様に、慌てて言い出した。
「あ、やばいっす!はやく行かないと、そろそろ守衛が来るっす!隊長が、みんなには内緒で行けと言ってました!」
「内緒で、かい?」
ディークに背中を押されて歩きながら、ダンカンはますます訳が分からなくなった。
「はい!かわいこちゃんが・・・あ、いや、もし途中で魔物や盗賊と戦うことがあったら、隊長が手当をつけてくださるそうですし、今日は、自分は出勤扱いで来てるっす!ですから、先輩達には秘密なんです!」
守衛長の意図が、やっとぼんやりとだが飲み込めた。守衛長は、昨日のビアンカの様子を見て、何かがあると思ったんだろう。そういえば、あの男は以前傭兵をしていたと聞いた。危険に対するカンは、優れているのかもしれない。

危険な事に巻き込んでしまうかも知れないと言う不安はあったが、兵隊がいたら村の手前から気が付くだろう。それにもしなにかあったとき、足の遅い自分より、この青年にビアンカを託した方がよほどいいだろう。ダンカンは、守衛長の好意に甘えることにした。
「わかりました。それでは、よろしくお願いします。」
「あ、いや、そんなんじゃないっす!頭、上げてください!それより、お嬢さんが待ってますよ!」ディークはダンカンに丁寧に頭を下げられて慌て、テレながら言った。
こうして、今回は奇妙なとりあわせでの旅となった。


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