夢の向こう側

<夢の向こう側 16話>
ビアンカを先頭にして、3人はサンタローズへの街道を急いだ。しかし、いくら急ぐと言ってもしょせん女の子の足である。彼女の後ろをディークとダンカンは、並んで話ながらついていった。
ダンカンは、昨日のビアンカのことを聞かれたらどう答えようかと心配していたが、その必要はなかった。ディークの旅の目的は村の娘と、でるかどうかもわからない手当のことに見事にスイッチしており、昨日ビアンカが暴れていたことさえまるで忘れているようだった。本当は、完全に忘れていたわけではなかったが、村に着けば、なにかあるならわかるだろうと思っていたので、あえて話題にはしなかったのだ。
男達は改めて自己紹介をした。ディークは自分の出身やこの街に来た理由を話し、そして他の守衛の男や守衛長夫人の話になった。
守衛長夫人は、アルカパでも5指に入る美人だ。いや、どちらかというと「かわいらしいお嬢さん」という表現の方が似合うだろう。守衛長がこの街に雇われてしばらくして、どこかから連れてきたのだ。いつもにこにこしていて、家事はひととおりこなし料理上手であったが、どこか世間知らずなところがあり、その言葉遣いや物腰、幸せに育ってきた娘によくある人を恨んだりひねたりしない性格から、彼女の素性について皆が興味を抱いた。しかし、彼女は夫に負けず劣らず口が堅く、にこにこしながらも決して自ら語ることはなかった。普通なら、そこで人々の反感を買いそうだが、その憎めない性格から、結局素性は謎のまま、街の人々に受け入れられた。
彼女の素性が難攻不落となると、人々の興味は二人のなれそめに向いた。こちらもたぶん本人達から聞き出せないだろうと最初からわかっていたので、人々は好き勝手な想像をしていた。「隊長さんが傭兵の時に、どこかのお姫様をさらってきたんだよ。」「いや、借金のカタに取ったに違いない」「金持ちをだまくらかして、娘を略奪したんだろう」どうしようもない噂は次々生まれては消えていったが、夫人は怒ることなく、面白そうに聞いていたので、どれが当たっているか皆わからないままだった。
この夫婦は、添い初めて長いが最近やっとおめでたで、今、守衛達の間では、子供の性別が一番の話題になっている、とディークは語った。
「自分は、男に賭けたっす。隊長に似た、かっこいい男の子がいいっす!でも先輩達は、奥さんに似た女の子がいいって言ってます。」そして、前を歩くビアンカを見て、「でも、たしかにかわいい女の子もいいっすよね!自分が結婚したら・・・どっちも欲しいっす!」
「ほう、ご結婚の予定が、おありですか?」
「ないっす!ぜんっぜん、ないっす!」ディークがあまりにも力を込めて否定するので、ダンカンは思わず笑ってしまった。
必死にあるくビアンカの後ろを、男達は和やかに語りながらついていった。しかしやがて、アルカパとサンタローズの間に横たわる、北から続いてきた山脈の終わりに当たる小さな丘の上まで来ると、大人達に緊張が走った。
炊事や農作業程度ではでないような黒い、幾筋もの煙が森の向こうから上がってくるのが見えたのだ。

「街道筋からそれた方がいいっすね。」
ディークが声を落として言った。
「確か・・・丘を降りたところに狩り用の道がある。そこから村の後ろ側に行けたはずだ。」
ダンカンも小さい声で答えた。そして心配そうにディークに尋ねた。
「いいのかね?一緒に来て。ここで帰った方が・・・」
「大丈夫っす。自分、けっこう魔法も剣もいけるっす!」
ダンカンの言葉を最後まで待たずディークは答え、腰の剣の袋をほどいた。
「昨夜隊長が、自分が使いやすそうなの選んでくれたっす。」
そして先を歩いているビアンカに追いつくと、守衛長夫人が用意したバスケットの中から、小さな袋を出し「薬草とキメラの翼が入ってるっす。使い方、ご存じっすか?」と言ってビアンカの腰のベルトに結びつける。
「それは・・・お弁当ではなかったのかい?」
「弁当も入ってるっす!」結びながらディークが答える。追いついたダンカンがバスケットを持ち上げると、かわいらしい見た目には似合わず、ずしりと重い。中には薬草や酒、キメラの翼と、かわいらしい布でつつまれた弁当らしい包みが入っていた。
「奥さんはすごいっすよ。自分も隊長もこんなにいらないっていったんすけど。千里眼ってやつですかね?」
ディークは誇らしげに言った。
ダンカンは驚いて、いろいろ聞きたいところであったが、今はそんな話をしている暇はない。ディークがバスケットを受け取り、ダンカンがビアンカを抱き上げると二人は辺りを警戒しながら丘を下った。


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