カランコロン・・・ 酒場の入り口の戸につけられた、木製のベルが乾いた音を立てる。 ダンカンと、彼を呼びに来た道具屋の主人が中に入ると、そこには街の主だった男達が集まっており、サンタローズから戻った者達が、街に残っていた者達に一部始終を説明していた。 「あんたはまた、なんでサンタローズに行ったんだね?」 入り口近くのあいていたテーブルに座ったダンカンに、町長が尋ねた。 「ビアンカが、リュカちゃんと遊びたがったものでね・・・」 守衛長をちらりと見たが、彼はじっと目をつぶっている。一昨日の話は何もしていないようだ。ダンカンは守衛長に心の中で感謝した。 「ほら、あの子達が助けた猫がいたでしょう。あれを見たいと言って、先週も行ったんですが、そのときはお留守でしてね。サンチョさんが数日で戻るとおっしゃってたんですよ。ビアンカがそろそろ帰ってきてるだろうとうるさかったので、番頭が休みじゃない日に行ってこようと思ったんですよ。」 ダンカンは、できるだけ落ち着いて、ゆっくりと話した。 「レヌール城の英雄コンビだもんな。」 「ビアンカちゃんもかわいそうだなぁ。あんな所に行きあっちまって。」 男達が言った。 「ありがとう。」ダンカンは礼を言うと、立ち上がり、深々と頭を下げて言った。 「それより・・・あたしのせいで、みなさんに迷惑がかかるかもしれません。申し訳ない。」 「やめてくれ、ダンカン。もし兵隊が来たとしても、あんただけの責任じゃない。」 村長が困った様子で言った。 男達は口々に、勝手な憶測を言ったが、どうにもまとまりがつかずにいた。 壁際に椅子を並べて座っていた二人の牧師のうち、最近学校を出てこの街にやってきた若いジョン牧師が、おそるおそる口を開いた。 「みなさんの話を伺っていて思ったのですが、ラインハットの内部は、十分に統率が取れていないのではないでしょうか。」 男達はざわめきながら、ジョン牧師を見た。ジョン牧師は躊躇したが、町長が「続けてください」と言ったので、そっと立ち上がった。 「私が知っている限り、ラインハットは現在、最大にして最強の王国です。そんな国の軍隊でありながら、今回の捜索も尋問もずいぶんとずさんな気がします。本来の彼らであれば、その下男の方が逃げるスキなど与えないでしょうし、中途半端な住人の傷付け方もしないと思います。誰もいなくならないと、こうして、情報が漏れてしまいますから。」 ジョン牧師は一生懸命言葉を選びながら話した。 「彼らが本気になれば、サンタローズどころか、小国一つつぶすことも、赤子の手をひねるより簡単なはずです。現にそうやって、周辺諸国を制圧して大きくなってきたのですから。」 男達は息を呑み、酒場は水を打った様にシンとした。 ジョン牧師は、この先どうしたものかと辺りを見回したが、もう一人の年老いたゴードン牧師がそっと頷いたので、また話を始めた。 「世継ぎの王子誘拐となれば、国を挙げて捜索するはずです。村の方は、キメラの翼などを使ったのではなく、兵隊は街道からやってきたと言っていました。だとしたら、事件はずいぶん前におきているはずです。しかし、ラインハットから来たという、昨日街に着いた旅人に今朝聞いた話では、少なくとも彼らが城下にいたときは、変わったことはなかったそうです。 もし城ではその情報を隠していて、隠密で捜索するのであれば、こんな中途半端なことをせず、もっと情報管理を徹底するはずです。しかし、村の方にお聞きしても、そんな風にしていたとは思えませんし、おとりの情報を流しているとも思えません。それに、ラインハット国王からの正式な捜索命令の証も示していないようです。こうなると・・・」 「ラインハット国王の命令で来た、正式な捜索隊ではない、ということか?」 黙っていた守衛長が口を開いた。 「あ、はい。そう考えてよいのではないかと思います。」 みんなが静かなので不安そうに話していたジョン牧師は、守衛長の反応にちょっとほっとした表情を見せた。 「牧師様、ずいぶん詳しいな。」 道具屋の主人が、悪意のない、不思議そうな表情でぽつりとつぶやいた。 男達の視線が道具屋の主人へ、そしてジョン牧師へ集まる。 「ああ、それは、彼がラインハットの神学校出身なので・・・」 年老いたゴードン牧師が立ち上がり、説明しようとしたが、顔を赤くしていたジョン牧師が、ゴードン牧師の言葉を遮り、懺悔でもしているかのような口調で言った。 「私の実家は・・・代々、ラインハットで兵士をしています。」 |
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