夢の向こう側

<夢の向こう側 28話>
男達がざわめく。ゴードン牧師が止めようとしたが、ジョン牧師は「いいんです。これが、真実ですから。」と言って続けた。
「兄も私も、幼い頃から兵士になるべく、武術や兵法を教えられていました。しかし、父や祖父の、そして先祖の武勇伝が私にとってはちっとも魅力的には感じられませんでした。ラインハットが大国になれたのは、殺戮と占領の歴史があったからです。私は、どうしてもそれが正しいこととは思えず、進学の道を選びました。兄には臆病者とののしられ、父には勘当されました。
しかし、私は間違ってなどいなかった!」
それは、いつもの明るく穏やかに話す彼と同一人物とは思えぬ、熱い、怒りのこもった口調だった。
「サンタローズを襲った兵士を指揮していたのは、私の父かも知れない、兄かも・・・そして、私がもし兵士になっていたら、私も、もしかしたら村の人々を・・・」
「もういい、落ち着きなさい。」
いつの間にか彼のそばに来ていた町長が、そっとジョン牧師の肩に手を置いた。
「あなたのお父上や兄上が何者であろうと、牧師様には関係ありませんよ。牧師様は、牧師様です。我々の、頼りになる牧師様だ。それでは不満ですかね?」
男達の間から、そうだ、そうだという声が上がる。だがジョン牧師は、まだ真っ青な顔をして、下を向いたままゴードン牧師に促されて椅子に座った。
騒ぎが落ち着くと、守衛長が低い、よく通る声で言った。
「いい牧師様って以上に、今回は俺達の強力なご意見番だ。専門家がいてくれたら助かるってもんだ。」
「私は・・・専門家ではありません・・・」まだ青い顔をしているジョン牧師は、不服そうに反論した。
「だが、ただの傭兵だった俺や、田舎で平和ボケしてる奴らよりはよっぽど詳しいだろ。」
守衛長は、牧師の反論など気にせず言った。
「こんな事態だ。好き嫌い言っていないで、できる奴ができることをするしかないんだよ。それで牧師様、奴らはどう動くと思う?」
男達の視線がジョン牧師に集まる。ジョン牧師は明らかに動揺し、真っ赤になってうつむいていたが、ゴードン牧師が一言、二言声を掛けると、やがて観念したように口を開いた。
「わたしは・・・はっきりは言い切れませんが、ラインハットの兵士がすぐにここに攻め入ってくるとか、サンタローズの様にこの街も荒らすだろうとは思いません。」
ジョン牧師の言葉に、男達から安堵の声がもれた。
「兵士の捜索の仕方や、サンタローズだけを探して監視も残さず、ほとんど全員が引き上げたらしいところを見ると、おそらく奴らはまだパパスさんに関する情報があまりないのではないでしょうか。そしてパパスさんを探していると言いながら、実際探しているのはパパスさんが持っていた何かである。逃げた下男の方の行き先も見当ついていないらしい。つまり・・・たぶん・・・」
ジョン牧師は、言いにくそうに言葉を濁す。誰かが「たぶん、なんだ?」と言っても、続けられないでいた。
「たぶんパパスさんは、捕らえられたが、口がきけない状態で彼自身から聞き出せないか、あるいはもう永遠にしゃべることができない、ということか?」
守衛長が淡々と言った。
「はい。」ジョン牧師が、死刑宣告をするような口調で答える。
酒場を重い沈黙が包んだ。
ジョン牧師がおどおどと、再び沈黙を破った。
「先ほど伺った、昨夜みなさんがお考えになった推測は、私も同意見です。
王位継承権1位にあったヘンリー王子のお母上は亡くなって久しく、私の知る限り城内は、ヘンリー様派と第2王子派、というか現王妃派、そして中立と称しながら勢力の強い方に着こうとしている者達がいます。」
ジョン牧師の口調は牧師としてのそれではなく、まるで兵士が戦況を報告しているかの様であった。
「現王は武道に優れ、まだ王位をお継ぎになる前から戦場におかれましては度々優れた戦果を上げられました。しかし、周辺諸国や蛮族、魔物達との勢力争いが落ち着いてきて、王位をお継ぎになり国政につかれますと、その・・・」
「ぼんくら王様になっちまってわけか!」誰かがやじり、皆がどっと笑った。
「まぁ、あの、そういう事です。」
ジョン牧師は、幼い頃に植え付けられたラインハット国王への忠誠心が痛む、という表情で答えた。
「しかも、その、現在の王妃はもとは踊り子でして・・・第2王子がお生まれになったとき、前の王妃、すなわちヘンリー様のお母上様はまだご存命でした。現王妃はそのころから、自分の地位を固めることに必死になっていました。」
ジョン牧師は現王妃にはあまり良い印象を抱いていないらしく、敬意を感じられない口調であった。
「まーた王様がどこかに子供こさえたら困るもんなぁ。」
「まさに英雄色を好む、ってやつか」
「そういう事です。」男達の独り言にも似た言葉にまで、ジョン牧師はまじめに答えた。


前のページへ戻る もくじへ戻る がらくた置き場のトップへ戻る 次のページへ進む


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送