夢の向こう側

<夢の向こう側 29話>
「パパスさんが、ラインハット王家と関係があったのかどうかわかりません。兵が探していた、パパスさんが持っていたという物を、彼らがなぜ探していたのかも。ただ、お聞きしたところ、パパスさんと言う方は、ずいぶんいろいろな所を旅していらしたそうですから、なにか狙われるような物を手に入れていたのかもしれません。ここからは、あくまで私の憶測ですが・・・」
ジョン牧師は男達を見回したが、皆黙って聞いているので、そこまま続けた。
「ヘンリー様がいなくなって、誰が一番利益を得るかは明らかです。ヘンリー様の誘拐騒ぎが起きたときに、偶然パパスさんがラインハットに行った。パパスさんが持っているなにかを狙っている者がいた。自分たちの罪をかぶせて、ついでにこれを口実にパパスさんの持っていらした物を奪ってしまおうという陰謀ができあがった。しかし、王が納得するような理由がでっちあげられなかったので、城下への告知はまだされていないし、サンタローズに来た兵士も正式な命令をうけていなかった・・・」
ジョン牧師はもう男達の方を見ておらず、壁の一点を見つめ、まるでそこにある戦況図を見ている様であった。
「国としての正式な指令でない以上、この街にサンタローズと同じ事はしないでしょう。ここは商人や旅人の出入りが多い。そんなことをしたら、噂はすぐに他の国にも伝わります。それ以上に、それを聞きつけたヘンリー様擁護派が騒ぎ出す方が、王妃派にとってはやっかいでしょう。一体何を探していたのかと追求されたらおそらく困るでしょうからね。それに、王はヘンリー様の事も溺愛していたそうですから、王妃が一枚かんでいるという事が知れたら、王妃自身の身も危うくなるかも知れません。それに、サンタローズでその、兵士が探していた「なにか」が見つからなかったのなら、みなさんがお考えになったとおり、下男の方が持って逃げたか、どこか容易には見つからないところに隠している、と考えるでしょう。そんなに大切な物を簡単に、ただの町人に預けるとは思えません。」
ここまで来て、ジョン牧師はやっと男達の方を見た。そして心配そうに「けれど・・・」とつぶやいた。
「けれど、なんですかね?」町長が尋ねる。
「もし、私だったら・・・皆がそう考えるからこそ、裏を掻いているのではないかということも考えて、やはり、この街にも調べに来ると思います。」
男達が不安げにざわめく。ジョン牧師は慌てて「いや、例えば、の話ですよ。私の勝手な想像です。」と言った。
「例えばでかまわんさ。どうせ全部推測での話なんだからな。確かなことはなーんにもわかっちゃいなんだ。だから、遠慮しないで、あんたの例えを言いなよ、牧師様」
守衛長の言葉で男達は静かになり、ジョン牧師は続けた。
「あ、は、はい・・・私なら、ここに調べに来ると思います。でも、兵士を引き連れて来たりはしません。兵隊とわからないようにして、こっそり下調べに来ます。サンタローズから情報が流れているのは予測できますから、街が警戒していることはお見通しでしょう。ですから、それとわからないように調べに来ます。」
「なるほどな・・・」町長は腕を組み、ため息をついた。「もし調べに来るとしたら、いつ頃来るでしょうね。」
「それは・・・わかりません。キメラの翼を使えば行き来に時間はかかりませんし、サンタローズを調べた兵士が全員ラインハットまで帰ったという確認もできていません。装備を脱いで、商人や旅人の服装で来たら、わかりませんからね。」
「わかりました。ありがとう」
村長はそう言って立ち上がった。ジョン牧師は、椅子に座りこみ、バーテンが持っていったコップを受け取り、美味しそうにそれを飲んだ。
「あんたが、兵隊にならないでくれて良かったよ。」
守衛長がジョン牧師に小声で言った。
「え、な、なんでですか?」
「あんたが敵にいたら手強そうだからな。どうだね、今からでも守衛隊にはいらないか?」
「滅相もありません!私は牧師が好きなんです!それに・・・武術は不得手なので・・・」
周りで聞いていた男達が、小さく笑った。
「他に・・・誰か、なにかあるかね?」
町長は皆を見回したが、誰も何も言わない。
「確かに牧師様がおっしゃったことは、憶測ではあるが、覚えておいて損はないだろう。はずれていて、なにもおきなかったら、それで万々歳だしな。とにかくわしらは、何も知らないし、何も預かってない。そうだな、みんな?」
町長は改めて男達を見舞わす。皆、こくこくと頷いている。
「しばらくの間、よそからの客に対して気をつけてくれ。不自然にならないようにな。何かあったら、すぐに報告すること。もし何か聞かれても、事実を正直に話せ。聞かれて困ることは何もないんだ。ただし、必要以上のことは言うな。わかっているな。」
町長は最後の一言を、話し好きの道具屋の主人に向かってことさら強調して言った。彼の方も自覚があるらしく「お〜い!わかってるよぉ!」と妙な節を付けて答え、皆を笑わせた。
「そんな訳だからダンカン、あんたは気にせず宿を続けてくれ。」
笑いが収まるのを待って町長が言った。
「あんたに宿を閉められる方が、わしらには問題だ。牧師様の予想では、どっちにしろ調べに来るんだ。あんたとパパスがどんな関係でもな。」
そこに、宿屋に泊まっている客が入ってきたので、その夜はお開きとなった。

ジョン牧師の予想が正しかったことは、すぐに立証された。


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