玄関には甘い香りがあふれ、既にマントをつけた男達がカウンターでクッキーをほおばっていた。誰かが「隊長!」と言うと、男達は口の端にクッキーのカスをつけたまま、慌てて整列した。 「かまわんよ。私も一つもらえるかな。」男は言い、マグダレーナが差し出した壺に手を入れ、大きく、丸いのを探り当てると、美味しそうにほおばった。 そして男はフードをかぶると、他の男達を従えて、雨の中へと出ていった。 「お気をつけて。」ダンカンが、続いてマグダレーナと番頭が深々と頭を下げる。 ダンカンが頭を上げたとき、ちょうど一人の男がキメラの翼を放り投げたところだった。 そして男達は、空へ消えていった。 男達がいなくなったのを見届けると、ダンカンはへなへなとその場に座りこんだ。 「ちょっと、ティムズ!大丈夫かい?」マグダレーナがかけより、番頭は水を取りに行った。 「なんだね、みっともない。さっきまではあんなにしゃっきりしていたくせに」 マグダレーナがダンカンの胸元のボタンをゆるめながら、ぶつぶつ言った。 「兵隊がいなくなったらすぐこれじゃ!あいつらがいなくなるまで、そのちっさな度胸がもってくれて良かったよ。心配ないって言ってたのは、おまえさんだろ!」 ダンカンは番頭が持ってきた水を飲み干し、やっとの想い出言葉を絞り出した。 「もう、おまえは・・・お茶なんか、いらないんだよ」 マグダレーナは胸を張って答えた。 「人間はね、寒くておなかがすいてるとイライラするんだよ。効果あったろ。ケーキが最初から出せたらよかったんだけどね。」 「だったら、酒でも・・・」 「だめだよ、酒は興奮するし、長居するからね。」 確かにマグダレーナの言うことは正しい。 「だけどね、おまえ・・・なんだい、ビアンカを連れてくるとか言い出して。あたしはあれで、寿命が縮んだよ。」 「肝っ玉の小さい人だね。相手はちゃんとしたお人そうだったからね。連れてこいなんて言わないことは、ちゃーんとわかってたさ。」 「・・・なんで、そう思うんだ?」 「女将の、カンだよ。」 ダンカンと、隣に跪いていた番頭は顔を見合わせ、ため息をついた。やっぱり女は一番恐ろしい魔物だ。 「まったく、おまえは・・・大した女房だ。大したおかみだよ。」 「当然だろ、なに言ってんだよ。」 マグダレーナは立ち上がり、偉そうに仁王立ちになった。 「でもね、あんたがた二人、肝っ玉が小さいのによくやったね。ラインハットの兵隊相手に、ちっとも負けてやしなかったよ。あたしゃ、あんたたちをホコリに思うよ。」 マグダレーナに褒められ、二人は思わず顔を赤くした。 そこへ、兵隊が帰ったことを教会に行った女達に知らせに行っていた従業員が戻ってきた。 「おお、ありがとう。ビアンカは、どうしたね?」 「台所にいらっしゃいます。町長さん達が、教会に集まってますが・・・」 「わかった、ビアンカの顔を見たら、すぐに行こう。」 マグダレーナの手を借りて、ダンカンは立ち上がった。 ビアンカは、詳しい説明はされていなかったのだが、なにか恐ろしい事が起こっていた事はわかっていた様子で、青い顔で黙って両親を待っていた。台所に夫妻が入ってくると、椅子からピョコンと飛び降りて、駆け寄った。 「父さん、母さん!」 「ビアンカ!恐い思いをさせて悪かったね。」 「だから、おまえが一緒に行ってやればよかったのに。」 「いいんだよ。あんたより、ビアンカのほうがしっかりしているんだからね。心配はいらないさ。」 口ではそう言っていても、マグダレーナがビアンカを抱きしめている様は、どう見ても、心配でたまらなかったとしか見えなかった。 「母さん、大丈夫?恐い人、帰った?」 「ああ、ああ、大丈夫だよ。優しい子だね。父さんががんばってくれたから、何にも恐いことなんて無かったさ。」 ダンカンはまたちょっと顔を赤くして、マグダレーナの肩越しにビアンカをのぞき込んだ。 「もう心配することはないんだよ。みんな、うまくいったからね。」 ビアンカはこくりと頷くと、マグダレーナの胸に顔を埋めた。 |
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