教会に集まった街の男達は、ダンカンの話を聞き、とりあえず胸をなで下ろした。 「その兵隊の言うこと、信じていいんじゃろうか」 「信じるしかなかろう」誰かの言葉に、町長が応えた。 「誰かがケガしたわけでも、何か壊されたわけでもないからな。」 そして町長は、末席にいた牧師に聞いた。 「牧師様は、どう思われますか?」 ジョン牧師は今回は迷い無く立ち上がり、答えた。 「とりあえず、様子を見ていいと思います。ただ、旅人に紛れて監視が入る可能性はまだありますから、もうしばらく言動に注意した方がいいと思います。」 「ありがとう。わかりました。他に・・・なにかあるかね?」 町長は男達を見回した。そこに、まだ座らずにいたジョン牧師が、おどおどしながら言った。 「あ、あの・・・」 「なんでしょうか、牧師様。」 ジョン牧師は少しためらっていたが、思い切って言った。 「みなさん、私が・・・スパイじゃないかとか、思わないんですか?」 一瞬の間の後、その場にいた男達のほとんどが笑い出した。 「あんた、スパイなのか?」誰かが明らかにからかっている口調でやじった。 「そんなことありませんよ、神に誓って!」 「だったら、なんだってそんなこと言い出すよ!」 「それは・・・」ジョン牧師は、顔を真っ赤にして早口で言った。 「わたしの父も、兄も、先祖代々ラインハット軍におりますし、僕も幼年学校に行ってましたし、そ、それに・・・」 「それなら、うちのかあちゃんの妹も、ラインハットのお城で働いてるぜ!」 道具屋の言葉を聞いて、ジョン牧師は「え?」と言った。 「ラインハットに親戚がいる者など、この街にはたくさんいるよ。」 ゴードン牧師に言われ、ジョン牧師は、ますます顔を赤くした。 「みんな、あんたがそんな男だとは思ってないよ。」 守衛長が、前の椅子の背に足を乗せたままの、神の御前には相応しくない格好で言った。 「仮にあんたがスパイで、俺達を内部から調査か、情報操作しようとしてたとしても、みんな調べられて困る事なんてないんだ。それによ、本物のスパイならもうちっとうまくやるぜ。」 男達は再びどっと笑ったが、ゴードン牧師がその笑い声を遮るように言った。 「ジョン牧師、あなたは自分の中の闇に負けたのです。」 「牧師様、それはもう・・・」町長が止めようとしたが、ゴードン牧師はかまわず続けた。 「あなたは、あなたを信じてくださっている皆様を疑ったのです。自分をスパイと思っているのではないかと考えた。あなたは信じることより、疑うことから始めたのです。」 教会の中がシンとした。ゴードン牧師の言葉は、ジョン牧師だけでなく、まるで、この数日互いに疑心暗鬼になっていた街の男達に言い聞かせるかの様に重く、静かに響いた。 「こんな事情です。誰かを疑ったり、己の身を守りたくなるのはしたかがないことです。しかし、あなたがみなさんをそんな風に疑ったら、あなたの言葉を信じたみなさんはどうすればいいのです。何を信じろと言うのですか? 確かに、非常事態であれば、警戒し、他人を疑うことも必要です。しかし、落ち着きなさい。何を信じて、何を疑うべきか、あなた自信が見失ってどうするのです。仲間を疑うことからほころびが生じ、崩壊するのですよ。」 ジョン牧師の顔からは血の気が引き、眼には涙が浮かんでいる。それでも彼は、まっすぐゴードン牧師の顔を見て、話を聞いていた。 男達もめいめいの思いを抱えながら、静かにゴードン牧師の言葉を聞いた。 「人は誰も、心の中に闇を持っています。それをなくしてしまうことはできません。闇と折り合いをつけながら、支配されないようにしていくしかないのです。誰か一人が、闇にのまれてしまったら、その闇はあっという間に、周りの人まで包み込んでしまうのですよ。どんな時でも、例えまわりが全部闇で閉ざされたとしても、負けないでいられるよう、自分を強く持たねばなりませんよ。」 そして、ゴードン牧師は男達に向かって、深々と頭を下げた。 「これもわたしの指導の不行き届きからくるもの、どうかお許しください。」 「あの・・・牧師様・・・」一人の男が、おずおずと立ち上がった。「それなら、俺も、あの・・・いろいろ、考えちまってました。許して欲しいのは、俺も一緒です。」 「俺もだ。」他の者も立ち上がる。「神様の前で、隠し事はいけねぇな。すまねぇ。」 これを合図にするように、次々に男達が立ち上がる。座っている男達もバツが悪そうにしていた。 「もういい、みんな、座れ!」 とうとう町長が声をあげた。 「今度の日曜は、街の者全員教会に来て悔い改めろ!これでいいですかな、牧師様。」 「わかりました。ながーいお説教を準備しておきますよ。」 「町長!あんたも来るのかい!」誰かのヤジに、町長が答えた。 「あたりまえだ!わしは心だけでなく、腹まで黒いからな!」 |
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