夢の向こう側

<夢の向こう側 6話>
翌日の昼過ぎに、一行はアルカパに到着した。もう宿を閉めるものと思っていた従業員や街の人は、職や取り引き先を失わずにすむことを知り一気に喜びでわき、ダンカン親子は暖かく迎えられた。
主人と女将につれられて街の人に挨拶に回り、翌日主人とダンカンは早速ラインハットへ様々な手続きに出かけた。
マグダレーナは女将と共に、早速宿の仕事を始めた。
「あんた、スジがいいわ」女将は感心して言った。もともと働くことが好きなマグダレーナは飲み込みも早く、ダンカン達が戻る頃には一通り女将の仕事をこなせるようになっていた。
そしてとうとうある日の早朝、客達が出発する前に、主人・・・いや、元の主人夫妻は馬車にわずかばかりの荷物と想い出を乗せて、ダンカン親子と宿の従業員や、街の人々に見送られて出発した。
「さぁ、仕事にもどりましょう」エプロンで涙をぬぐい、細い身体だが力持ちの女中頭が、明るい声で号令をかけた。
「今日からよろしくお願いします。だんなさん、女将さん。」
改めて宿のみんなに頭をさげられて、二人は恐縮した。
「あたしたちの方こそ、よろしくお願いしますよ」落ち着いた声になるよう努力しながら、ダンカンは言った。「はやいところ借金を返して、みんなの給料が上げられるように一緒に頑張りましょう。」
「おー!」「いいねぇ!」従業員達は笑顔で仕事に戻っていく。

こうしてビアンカの新しい生活が始まった。

ダンカンが予想した通り、落ち着いた生活は危険な目に遭うこともあまりなく、ビアンカが不思議な力を見せる機会はぐっと減った。それでも時々ビアンカは、その力を見せ、ダンカン達をはらはらさせた。日々成長し、おしゃべりも達者になるビアンカは、その不思議な能力の話を「変な夢」と表現した。ダンカン夫妻はビアンカに、何度も言い聞かせた。
「いいかい、お前のその『変な夢』の話は、父さんと母さんにだけ教えておくれ。他の人には決して言ってはいけないよ。
「どうして?」ビアンカは、無邪気な空色の瞳を大きくして尋ねる。
ダンカンは、ちいさなビアンカがわかるように、丁寧に何度も説明を繰り返した。
小さかったビアンカも成長していくうちに、自分の不思議な夢はみんなが見るわけではないことがわかるようになり、ついうっかり他の人に言ってしまい、嫌な思いをしたりした経験をつみ、また、どんな話でも両親がまじめに聞いて対応してくれることもわかったので、他人に話してしまうことはなくなっていった。
ビアンカの夢の話を聞いた街の人々は、マグダレーナが「まだ小さいので時々、自分で考えたことと現実がごっちゃになっちまうんですよ。すみませんねぇ」と言われ、空想好きな小さな女の子にはありがちなことと受け止め、あまり気に留める事もなかった。それでもごく一部の人達、例えばビアンカが街を脱走しようとして彼女を捕まえる守衛や、ビアンカが夢の話をするのを耳にする機会がある番頭や女中頭などは、彼女の勘の良さに気づいていたが、ダンカン夫妻が彼らに何も言わなかったし、自分たちには大した害がなかったのでなにも言わずにいた。


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